定年退職後の保険見直し 〜知っておくべきポイントと手順〜
はじめに
多くの方にとって、定年退職は人生の大きな節目となります。長年勤めた会社を離れ、収入や生活スタイルが変化するこの時期は、今後の人生設計を改めて考える良い機会です。その中でも、将来の安心に関わる「保険」について見直しを検討される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
定年退職後の保険見直しは、漠然とした不安を具体的な安心に変えるための重要なステップです。この記事では、定年後に保険を見直す必要性やメリット、そして具体的な見直しポイントや手順について、分かりやすく解説していきます。
なぜ定年退職後に保険を見直す必要があるのか
定年退職を境に、ご自身の置かれている状況は大きく変化します。これまでの保険契約は、現役世代の生活や収入を前提に設計されていることが多いため、定年後の状況には合わなくなっている可能性があるのです。
ライフステージの変化への対応
定年後は、勤労収入が年金中心となるなど、収入構造が変わります。また、お子様が独立されている場合、扶養家族の状況も変化しているでしょう。現在の保険料負担が収入に対して重くなっているかもしれませんし、必要な保障額も現役時代とは変わってきている可能性があります。
公的保障の変化
医療制度や介護制度など、高齢者向けの公的保障は現役世代とは異なる部分があります。例えば、75歳以上になると後期高齢者医療制度に加入することになります(一定の障がいがある場合は65歳から加入可能です)。これらの公的保障の内容を理解し、民間の保険でどこまで備えるべきかを考える必要があります。
保険に求める役割の変化
現役時代は、もしものことがあった際の家族の生活費や、住宅ローンの保障などを目的として手厚い死亡保障に加入していたかもしれません。しかし、定年後は、医療費や介護費用への備え、あるいはご自身の死亡後の葬儀費用や資産継承などを主な目的として保険を検討する方が増えます。このように、保険に求める役割自体が変わってくるため、見直しが必要となるのです。
保険を見直すことの主なメリット
定年退職後に保険を見直すことで、様々なメリットが期待できます。
保険料負担の軽減
不要になった保障や過大な保障を整理することで、毎月または毎年支払う保険料を抑えることができます。収入が減少する中で、保険料負担を軽減できることは、老後の家計にとって大きな助けとなります。
必要な保障への最適化
ライフステージや健康状態、そして今後のライフプランに合わせて、本当に必要な保障だけを残したり、新たに備えたい保障(例えば介護保障など)を加えたりすることで、保障内容を最適化できます。これにより、無駄なく、かつ必要な安心を得られるようになります。
老後資金の確保への寄与
見直しによって保険料が軽減された分を貯蓄に回したり、加入している保険の解約返戻金や年金保険の受取金を老後資金として活用したりすることも検討できます。保険契約の中には、保障だけでなく貯蓄や資産形成の機能を持つものもありますので、それらを老後資金計画にどう組み込むか考える機会にもなります。
定年退職後の保険見直しでチェックすべきポイント
保険を見直す際には、いくつかの重要なポイントを確認し、検討を進めることが大切です。
現在加入している保険の保障内容の確認
まずは、現在加入している保険契約の内容をすべて把握することから始めましょう。
- 保険の種類: 生命保険、医療保険、がん保険、介護保険など、どのような種類の保険に加入していますか。
- 保障期間と保険料払込期間: 保障がいつまで続くのか、保険料はいつまで支払う必要があるのかを確認します。例えば、終身保険は一生涯の保障ですが、保険料の払込は一定期間で終わる「有期払い」と、一生涯続く「終身払い」があります。
- 保障金額: 死亡保険金、入院給付金、手術給付金など、それぞれの保障金額はいくらになっていますか。
- 特約の内容: 入院特約、手術特約、先進医療特約、特定疾病特約など、どのような特約が付加されていますか。不要になった特約や、老後には合わない特約が付いていないか確認します。
保険証券や、保険会社から送られてくる契約内容のお知らせなどを確認してください。もし証券が見つからない場合は、契約している保険会社に問い合わせて確認できます。
公的保障の内容の確認
日本の医療保険制度や介護保険制度は非常に手厚いものですが、すべてをカバーできるわけではありません。ご自身の年齢でどのような公的保障が受けられるのか、自己負担はどの程度になるのかを理解することが重要です。
- 健康保険・後期高齢者医療制度: 医療費の自己負担割合は、年齢や所得によって異なります。また、高額療養費制度など、自己負担額に上限を設ける制度もあります。
- 公的介護保険制度: 要介護認定を受けることで、様々な介護サービスを費用の一部負担で利用できます。利用できるサービスや自己負担割合は、要介護度や所得によって異なります。
これらの公的保障でカバーされない部分を、民間の保険でどのように補うかを検討します。
自身の健康状態の変化と今後の医療費への備え
高齢になるにつれて、病気やけがのリスクは一般的に高まります。これまでの健康状態や、今後予測される医療費について考えてみましょう。
- 医療保険の役割: 公的医療保険があっても、入院中の差額ベッド代、食事代、交通費、先進医療にかかる費用など、自己負担となる費用は少なくありません。医療保険は、これらの自己負担分や、働けない間の収入減などを補う役割を果たします。
- 医療保険の選び方: これから医療保険を検討する場合、年齢によっては保険料が高くなる傾向があります。また、既往症がある場合は、加入できる保険が限られることもあります。現在の健康状態を踏まえ、必要な保障内容(入院日数、先進医療特約の有無など)と保険料のバランスを考慮して検討します。
介護への備え
もし将来、介護が必要になった場合のことも考えておく必要があります。公的介護保険だけでは不足するサービス費用や、自宅改修費用、施設入居費用などに備えるため、民間介護保険の活用も選択肢の一つです。
- 公的介護保険のサービス: 自宅でのヘルパー派遣やデイサービス、特別養護老人ホームなどがあります。
- 民間介護保険: 公的介護保険の要介護認定に連動するものや、保険会社独自の基準で給付されるものなどがあります。一時金で受け取るタイプや年金形式で受け取るタイプなど、様々な商品があります。
死亡保障の必要性と資産継承
現役時代に家族のために手厚い死亡保障に加入していたとしても、定年後は残された家族の生活費がそれほどかからなくなるなど、必要な保障額が減少する場合があります。
- 死亡保障の見直し: ご自身の死亡後に残されたご家族(配偶者など)にどの程度の資金が必要か(葬儀費用、当面の生活費など)を検討し、必要な保障額を見直します。
- 終身保険の活用: 終身保険は保障が一生涯続き、解約返戻金がある程度貯まる貯蓄性も兼ね備えています。死亡保険金を受け取る方を指定することで、特定の方に資産を継承する手段としても活用できます。保険契約者貸付制度を利用して、貯まった解約返戻金の一部を借り入れることも可能です。
保険料の支払い能力と老後資金計画
定年後は収入が減少することが一般的です。現在の保険料が、今後の収入に対して負担になりすぎていないか確認し、必要であれば保険料を抑える検討をします。
また、加入している貯蓄型保険(終身保険や個人年金保険など)を、今後の老後資金計画にどう組み込むかを考えます。解約返戻金を受け取って一時的な資金に充てる、年金として受け取る、保障を減らして保険料負担を軽くする(減額)、保険料の支払いをやめて保障を継続する(払済保険)など、様々な選択肢があります。
保険見直しの具体的な手順
定年退職後の保険見直しは、以下のステップで進めるとスムーズです。
ステップ1:現在の保険契約内容を確認する
お手元にある保険証券などをすべて集め、現在加入している保険の種類、保障期間、保険料、保障内容などを確認します。不明な点があれば、遠慮なく保険会社に問い合わせてみましょう。ねんきん定期便などで、受け取れる年金額も確認しておきます。
ステップ2:今後のライフプランと必要保障額を検討する
定年後のご自身のライフプランを具体的にイメージします。今後どのような生活を送りたいか、予測される支出(生活費、趣味・旅行の費用、医療費、介護費など)はどのくらいか、現在の貯蓄はいくらかなどを整理します。これらを元に、万が一の際に必要な資金はどのくらいかを検討します。
ステップ3:公的保障の内容を確認し、不足分を把握する
健康保険や後期高齢者医療制度、公的介護保険制度でどのような保障が受けられるのかを確認します。自治体の窓口や厚生労働省のウェブサイトなどで情報を得られます。ステップ2で検討した必要保障額に対し、公的保障でどのくらいカバーできるのかを把握し、民間の保険で備えるべき不足分を洗い出します。
ステップ4:必要な保障を民間の保険で準備する方法を検討する
現在の保険契約を継続するか、減額、払済、解約などの方法で整理するか、あるいは新たな保険に加入するかを検討します。ステップ3で明らかになった不足分を補うために、どのような保険商品が適しているか、複数の商品を比較検討します。保障内容と保険料のバランスを考慮し、無理のない範囲で最適な選択をします。
ステップ5:専門家や相談窓口を活用する
保険の見直しは専門的な知識が必要となる場合が多く、ご自身だけで判断するのが難しいこともあります。そのような場合は、保険会社の窓口や保険代理店、ファイナンシャルプランナー(FP)などの専門家に相談してみるのも良い方法です。ご自身の状況を丁寧に伝え、疑問点や不安な点を解消しながら、納得のいく選択をしてください。
まとめ
定年退職後の保険見直しは、これからの老後生活を安心して過ごすための重要な取り組みです。ライフステージや公的保障の変化に合わせて保険を見直すことで、保険料の負担を軽減し、必要な保障を最適化することができます。
ご自身の現在の保険契約の内容、公的保障、そして今後のライフプランをしっかりと把握することが見直しの第一歩です。焦らず、一つずつ確認を進めてください。もし判断に迷うことがあれば、専門家の意見も参考にしながら、ご自身の状況に合った賢い選択をしていただければ幸いです。