定年世代が知っておきたい、保険の解約返戻金の考え方と活用法
はじめに:定年後の生活資金と保険の見直し
定年を迎え、これからの生活について考える中で、「老後の生活資金は足りるだろうか」「思わぬ医療費や介護費用がかからないか」といったお金に関する不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。また、若い頃に加入した保険が今の自分に合っているのか、保険料の負担をどうするかといった見直しを検討することもあるでしょう。
そのような保険の見直しを考える際に、「解約返戻金(かいやくへんれいきん)」という言葉を聞くことがあります。これは、保険を途中で解約した場合に戻ってくるお金のことです。
この記事では、定年世代の皆様に向けて、保険の解約返戻金について分かりやすく解説します。解約返戻金とは何か、どのように受け取れるのか、そしてこのお金をどのように活用できるのか、さらに注意すべき点についてもご説明します。ご自身の保険と照らし合わせながら、賢い選択をするための一助となれば幸いです。
保険の解約返戻金とは何ですか
解約返戻金とは、生命保険や損害保険などの積立型の保険契約を、満期になる前に途中で解約した場合に、保険会社から契約者へ払い戻されるお金のことです。
保険料の一部は、将来の保険金支払いや会社の運営経費に充てられますが、残りの一部が積み立てられています。この積み立てられた部分が、解約時に一定の計算方法に基づいて契約者に戻されるのが解約返戻金です。
すべての保険に解約返戻金があるわけではありません。「掛け捨て型」と呼ばれる、保険料が主に保障のために使われ、積み立てがないタイプの保険(例:定期保険や多くの医療保険、がん保険など)には、解約返戻金がないか、あってもごくわずかです。
一方、保険期間が一生涯続く終身保険や、満期保険金がある養老保険、個人年金保険といった「貯蓄型」の側面を持つ保険には、通常、解約返戻金があります。
解約返戻金はどのように受け取れますか
解約返戻金を受け取るには、原則として、加入している保険契約を途中で「解約」する必要があります。解約の手続きをすることで、保険会社から指定した口座に解約返戻金が振り込まれます。
ただし、保険を解約するということは、それまで受けていた保障が一切なくなるということを意味します。例えば、死亡保険であれば死亡保障が、医療保険であれば医療保障がなくなります。解約する際は、保障がなくなることの影響を十分に理解し、慎重に判断することが大切です。
解約返戻金の金額はどう決まるのですか
解約返戻金の金額は、保険の種類や契約期間、保険料の払込期間、契約からの経過年数など、さまざまな要因によって決まります。
一般的に、契約から日が浅いほど解約返戻金は少なく、払い込んだ保険料の総額を下回ることがほとんどです。これを「元本割れ」と呼びます。契約から長期間が経過し、保険料の払い込みを長く続けているほど、解約返戻金は増えていきます。ただし、保険の種類によっては、払い込んだ保険料の総額を解約返戻金が上回る「ピーク」があり、その後は減少していく場合もあります。
特に、契約後まもなく解約すると、解約返戻金がまったく戻ってこないか、ごくわずかしか戻ってこないといったケースもありますので注意が必要です。具体的な金額については、ご自身の保険証券を確認するか、保険会社に問い合わせることで知ることができます。
解約返戻金を活用する考え方
解約返戻金は、保険を解約することで手に入るお金ですが、他にもいくつかの活用方法が考えられます。
1. 保険を解約して資金として活用する
最も直接的な方法です。まとまった資金が必要になった際に、加入している積立型の保険を解約し、その解約返戻金を生活費や急な出費、他の資金計画に充てるという考え方です。
しかし、前述のように保障はなくなります。また、契約から一定期間が経過していないと元本割れのリスクがあります。資金が必要な状況と、失う保障の重要性、戻ってくる金額を総合的に判断する必要があります。
2. 契約者貸付制度を利用する
契約者貸付制度とは、解約返戻金の一部を担保として、保険会社からお金を借り入れられる制度です。保険を解約せずに資金を得られるため、保障を維持したまま一時的な資金ニーズに対応できます。
ただし、借り入れには利息がかかります。返済しないままにしておくと、借り入れ元金と利息が解約返戻金から差し引かれたり、最悪の場合、保険契約が失効・消滅したりする可能性もあります。利用する際は、返済計画をしっかり立てることが重要です。
3. 払済保険や延長(定期)保険に変更する
これは保険を解約するのではなく、「保険の種類を変更する」という方法ですが、この際に積み立てられた解約返戻金が活用されます。
- 払済保険(はらいずみほけん):以後の保険料の払い込みをやめ、その時点の解約返戻金をもとに、元の保険と同種類の保障を、保険金額を減らして継続する方法です。保障期間は変わりません。
- 延長(定期)保険:以後の保険料の払い込みをやめ、その時点の解約返戻金をもとに、元の保険と同額の死亡保障を、保険期間を短くして継続する方法です。
これらの方法を選ぶことで、解約返戻金を直接受け取るわけではありませんが、解約返戻金を活かして保険料負担なく最低限の保障を確保することができます。これは、定年後に保険料の支払いが厳しくなった場合の有効な選択肢の一つと言えます。
解約返戻金を検討する上での注意点
解約返戻金を活用することを考える際には、いくつかの注意点があります。
- 保障がなくなることの影響を考える: 保険を解約すると、それまであった保障が失われます。特に、病気や介護など、定年世代になってからこそ必要となる保障がないと、万が一の際に大きな負担が生じる可能性があります。保障が必要かどうか、他の方法で備えられないかを慎重に検討してください。
- 元本割れのリスク: 契約からの期間によっては、払い込んだ保険料の総額よりも解約返戻金の方が少なくなる「元本割れ」が起こります。解約返戻金を目的に加入した貯蓄型保険であっても、元本割れを起こしては元も子もありません。
- 税金がかかる場合がある: 解約返戻金が、払い込んだ保険料の総額を大きく上回る場合、「一時所得」として所得税・住民税の課税対象となることがあります。また、保険契約者と受取人が異なる場合には、贈与税や相続税の対象となる可能性もあります。税金の取り扱いは複雑な場合があるため、必要に応じて税務署や専門家に確認することをお勧めします。
- 他の資金計画とのバランス: 解約返戻金は、あくまで老後資金の一部として考えるべきです。年金や貯蓄、退職金など、他の資産全体の中で、解約返戻金をどのように位置づけるか、総合的な資金計画の中で判断することが大切です。
まとめ:ご自身の状況に合った賢い選択を
保険の解約返戻金は、定年後の資金計画や保険の見直しにおいて、一つの選択肢となり得ます。しかし、保険の種類や契約内容によって扱いは異なり、解約による保障の消失や元本割れのリスクといった注意点も伴います。
ご自身の保険の解約返戻金がいくらになるのか、そしてそれをどのように活用するのが最もご自身の状況に合っているのかを判断するためには、まずご自身の保険契約内容(保険証券)をしっかりと確認することが第一歩です。
その上で、解約するべきか、契約者貸付を利用するべきか、あるいは払済保険等に変更するべきかなど、複数の選択肢を比較検討することが大切です。判断に迷う場合は、保険会社の担当者や、特定の保険会社に偏らない立場のファイナンシャルプランナーなど、保険や家計の専門家に相談してみることも有効な方法です。
この記事が、定年世代の皆様が保険の解約返戻金について理解を深め、ご自身にとって最良の選択をするための一助となれば幸いです。