老後の保険金・給付金にかかる税金:種類と知っておきたい注意点
はじめに
定年退職を迎え、これからの生活について考える中で、ご自身やご家族が加入している保険から、保険金や給付金を受け取る機会が増えることがあるかもしれません。例えば、長年積み立ててきた保険が満期になったり、医療費がかさんだ際に医療保険の給付金を受け取ったり、将来に備えて契約した個人年金保険から年金を受け取ったりといった場合です。
これらの保険金や給付金は、生活を支える大切な資金源となりますが、受け取ったお金には税金がかかる場合があることをご存じでしょうか。どのような場合に税金がかかるのか、そして税金の種類や知っておきたい注意点を知っておくことは、老後の資金計画を立てる上でとても大切です。
この記事では、老後に受け取る可能性のある主な保険金や給付金について、どのような税金がかかるのか、そして税金について知っておきたいポイントを分かりやすく解説します。
保険金・給付金にかかる税金の基本的な考え方
保険金や給付金にかかる税金は、お金の種類や、「契約者」「被保険者」「受取人」がそれぞれ誰であるかによって変わってきます。
- 契約者: 保険契約を結び、保険料を支払う人です。
- 被保険者: その人の生死や病気・ケガの状態によって保険金や給付金が支払われる対象となる人です。
- 受取人: 保険金や給付金を受け取る人です。
これらの関係性によって、「所得税」「相続税」「贈与税」のいずれかの税金がかかる可能性があります。
ただし、すべての保険金・給付金に税金がかかるわけではありません。医療保険の入院給付金や手術給付金、介護保険の給付金など、受け取ったお金の性格によっては税金がかからない(非課税となる)ものもあります。
主な保険金・給付金の種類と税金
ここでは、老後に受け取る可能性のある主な保険金・給付金について、税金の種類をケースごとに見ていきましょう。
死亡保険金を受け取った場合
被保険者が亡くなった場合に、受取人が受け取るのが死亡保険金です。死亡保険金にかかる税金は、契約者、被保険者、受取人の関係性によって、以下の3つのケースに分かれます。
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ケース1: 契約者と被保険者が同じで、受取人が異なる場合
- 例: 夫が夫自身を被保険者として契約し、妻が受取人となるケース
- この場合、死亡保険金は「受取人」が「契約者兼被保険者」から相続によって取得したとみなされ、相続税の対象となります。死亡保険金には「相続税の非課税枠」が設けられており、「500万円 × 法定相続人の数」までは非課税となります。
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ケース2: 契約者と受取人が同じで、被保険者が異なる場合
- 例: 夫が妻を被保険者として契約し、夫自身が受取人となるケース
- この場合、保険金は「契約者兼受取人」が取得するものですが、死亡という出来事によって利益を得たとして、所得税(一時所得) の対象となります。一時所得は、受け取った保険金から、支払った保険料の総額を差し引いた金額などに税金がかかります。
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ケース3: 契約者、被保険者、受取人のすべてが異なる場合
- 例: 夫が妻を被保険者として契約し、子が受取人となるケース
- この場合、「契約者」が保険料を支払い、それが「受取人」に渡る形となるため、贈与税の対象となります。贈与税は税率が高くなる傾向があるため、注意が必要です。
死亡保険金は、受取人を誰にするかによって税金の種類や負担額が大きく変わる可能性があるため、契約時や見直し時に税金のことを考慮することが重要です。
満期保険金や解約返戻金を受け取った場合
貯蓄型の保険などが満期になった際に受け取る満期保険金や、保険を解約した際に戻ってくる解約返戻金にも税金がかかる場合があります。
- 満期保険金: 契約者と受取人が同じである場合、受け取った満期保険金は「一時所得」として所得税の対象となります。一時所得の金額は、「受け取った満期保険金 - 支払った保険料の総額 - 特別控除額(最高50万円)」として計算され、この金額の1/2が他の所得と合わせて課税されます。
- 例: 支払った保険料総額が300万円、満期保険金が400万円の場合、一時所得の金額は400万円 - 300万円 - 50万円 = 50万円となります。課税されるのはその1/2である25万円です。
- 解約返戻金: 契約者と受取人が同じである場合、受け取った解約返戻金も原則として「一時所得」として所得税の対象となります。満期保険金と同様に、受け取った金額から支払った保険料総額などを差し引いた金額に税金がかかります。
ただし、契約者と受取人が異なる場合は、贈与税の対象となる可能性があります。
医療保険・がん保険の給付金などを受け取った場合
病気やケガで入院したり手術を受けたりした際に、医療保険やがん保険から支払われる給付金(入院給付金、手術給付金、通院給付金など)は、原則として非課税となります。これは、これらの給付金が病気やケガによる損失を補う性質のお金であるためです。
先進医療にかかる技術料に対する給付金や、診断給付金なども、原則として非課税とされています。
介護保険の給付金を受け取った場合
公的な介護保険制度から受け取る給付だけでなく、民間の介護保険から要介護状態になった際に支払われる給付金も、原則として非課税となります。これは、介護にかかる費用を補うための給付であるためです。
個人年金保険の年金を受け取った場合
ご自身で積み立てた個人年金保険から、年金の形で定期的に受け取るお金は、「雑所得」として所得税の対象となります。公的年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金など)も雑所得として課税されますが、個人年金保険からの年金は、公的年金等以外の雑所得として別に計算されます。
年金額から、その年金額に対応する払込保険料を差し引いた金額が課税対象となります。
税金について知っておきたい注意点
- 非課税となる給付金が多いことを知っておく: 医療給付金や介護給付金など、多くの給付金は非課税です。保険金・給付金を受け取ったからといって、必ずしも税金がかかるわけではありません。
- 一時所得の特別控除: 満期保険金や解約返戻金にかかる一時所得には、年間50万円までの特別控除があります。他の一時所得がない場合、利益が50万円以下であれば税金はかかりません。
- 確定申告が必要な場合がある: 死亡保険金にかかる相続税や贈与税、満期保険金や個人年金保険にかかる所得税は、原則としてご自身で計算し、税務署に申告・納付する必要があります(確定申告)。必要な手続きを行わないと、後で追徴課税などが発生する可能性があります。
- 税金の計算は複雑な場合がある: 保険金にかかる税金の計算は、特に相続税や贈与税の場合、他の財産との兼ね合いもあり複雑になることがあります。
- 税制は改正されることがある: 税制は変更される可能性があります。最新の情報は国税庁のウェブサイトなどで確認するか、税務署や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
老後に保険金や給付金を受け取る際には、そのお金の種類や受け取り方によって税金がかかる場合と、かからない場合があります。特に、死亡保険金、満期保険金、解約返戻金、個人年金保険からの年金は課税対象となる可能性がありますので注意が必要です。一方で、医療給付金や介護給付金などは原則として非課税です。
どのような場合にどのような税金がかかるのかを知っておくことは、ご自身の老後資金計画を立てる上で役立ちます。税金の計算方法や申告手続きに不安がある場合は、税務署や税理士などの専門家に相談することも検討してみてください。
保険の保障内容だけでなく、受け取るお金にかかる税金についても理解を深めることで、より賢く保険を活用し、安心して老後を過ごすための一歩となるでしょう。