保険の「契約転換」を分かりやすく解説 ~定年後の保険見直しで知っておきたいこと~
はじめに:保険契約の転換とは
定年退職を迎え、これからの生活設計に合わせて保険を見直したいとお考えの方もいらっしゃると思います。保険を見直す方法にはいくつか選択肢がありますが、その一つに「保険契約の転換(てんかん)」と呼ばれるものがあります。
「契約転換」とは、現在加入している保険契約を一度解約したとみなし、その解約返戻金などを新しい保険契約の保険料の一部(「転換価格」と呼びます)に充当して、新しい保険に加入し直す仕組みです。例えるなら、古い車を下取りに出して、その分を新しい車の購入資金に充てるようなイメージに近いかもしれません。
この仕組みを利用することで、現在加入している保険の積立部分などを活かしながら、新しい保障内容の保険に切り替えることができます。しかし、仕組みをよく理解せずに安易に転換を選ぶと、かえってご自身の状況に合わない結果になってしまうこともあります。ここでは、定年世代の方が保険契約の転換を検討する際に知っておきたいポイントを分かりやすく解説します。
保険契約の転換の仕組み
保険契約の転換は、以下の流れで行われるのが一般的です。
- 現在の保険契約の確認: 現在加入している保険の保障内容、保険料、保険期間、払込期間、そして解約返戻金や積立配当金などがどのくらいあるかを確認します。
- 新しい保険契約の設計: 新しい保険でどのような保障が必要か、保険期間や保険料の払込期間はどうするかなどを決め、保険会社に新しい契約プランを設計してもらいます。
- 転換価格の計算と充当: 現在の保険契約の解約返戻金や積立配当金などが「転換価格」として計算されます。この転換価格を、新しく加入する保険契約の保険料の一部として充当します。
- 新しい保険契約の締結: 転換価格を充当した上で、新しい保険契約を締結します。この際、原則として健康状態の告知や診査が必要になります。
重要なのは、転換はあくまで「新しい保険契約に加入し直す」ということです。そのため、新しい契約の保険料は、その時点の年齢や健康状態に基づいて再計算されます。また、保障内容や保険期間なども新しく設定し直すことになります。
保険契約の転換のメリット
保険契約の転換には、いくつかのメリットが考えられます。
- 古い契約の積立部分を活用できる: 現在加入している保険契約に貯まっている解約返戻金や積立配当金を、新しい保険の保険料の一部に充てることができます。これにより、一時的な保険料負担を抑えつつ、新しい保障を得られる場合があります。
- 現在のライフプランに合わせて保障内容を見直せる: 結婚や子供の独立、定年退職など、ライフステージの変化に合わせて必要な保障内容は変わります。転換を機に、現在の状況に合った保障内容に切り替えることができます。
- 手続きが比較的スムーズな場合がある: 同じ保険会社の他の商品へ切り替えるため、全く新しい保険に加入するよりも手続きがスムーズに進む場合があります。
保険契約の転換のデメリット・注意点
メリットがある一方で、保険契約の転換には特に注意が必要なデメリットや落とし穴が潜んでいます。定年世代の方が検討する際は、以下の点に十分な注意が必要です。
- 保険料が大幅に高くなる可能性が高い: 転換は「新しい保険に加入し直す」ため、保険料は転換する時点の年齢で計算されます。若い頃に加入した古い契約と比べて、保険料が大幅に高くなることがほとんどです。保障内容を同じにしても、保険料負担が増えてしまうケースが多く見られます。
- 保障が減ってしまう可能性がある: 転換前の保険と同じ保険料で新しい契約を結ぼうとすると、年齢が上がっている分、保障額を減らさざるを得なくなることがあります。
- 健康状態によっては加入できない、または条件が付く: 新しい保険契約となるため、健康状態の告知や診査が必要です。健康状態によっては、新しい契約に加入できなかったり、特定の病気やケガが保障の対象外となるなどの条件(「特別条件」と呼びます)が付く場合があります。
- 新しい契約の責任開始日や免責期間: 新しい契約には、保障が開始される「責任開始日」が改めて設定されます。医療保険やがん保険などでは、契約後一定期間(例えば90日間)は保険金が支払われない「免責期間」が設けられているのが一般的です。転換した場合、この免責期間が再度適用されることになり、その期間中に病気やケガをしても保障されない可能性があります。
- 契約当初の目的とのずれ: 古い契約は、加入当時のライフプランや保険制度に基づいて設計されています。転換後の新しい契約が、現在の状況や将来の不安に本当に合っているのか、しっかりと確認が必要です。
- 安易な転換は避ける: 保険会社の担当者から転換を勧められることがありますが、「今までの積立を無駄にせず、新しい保障が持てるお得な方法」とだけ聞いて安易に判断するのは危険です。特に高齢での転換は、保険料負担増や保障内容の不利益につながることが多いため、慎重な検討が不可欠です。
転換以外の見直し方法との比較
保険の見直し方法として、契約転換以外にも以下のような選択肢があります。
- 減額: 現在の保障額を一部減らすことで、保険料負担を軽くする方法です。
- 払い済み保険: 今後の保険料の払い込みを中止し、その時点での解約返戻金をもとに、保険期間を変えずに保障額を減らした保険に変更する方法です。
- 延長(定期)保険: 今後の保険料の払い込みを中止し、その時点での解約返戻金をもとに、保障額を変えずに保険期間を短縮する定期保険に変更する方法です(死亡保障のある保険の場合)。
- 解約: 契約そのものを終了させる方法です。
これらの方法と契約転換を比較し、ご自身の目的や状況に最も合った選択をすることが大切です。特に、保険料負担を減らしたいという目的であれば、減額や払い済み保険の方が適している場合もあります。
まとめ:賢い選択のために
保険契約の転換は、古い契約の積立部分を活かしつつ、新しい保障内容に切り替えられる仕組みです。しかし、特に定年世代の方が転換を検討する際は、転換後の保険料が大幅に高くなる、健康状態によっては加入できない、免責期間が再度適用されるなど、注意すべき点が非常に多くあります。
安易に「積立を活かせるから」「担当者から勧められたから」といった理由だけで転換を選ぶのではなく、転換後の保障内容と保険料が本当にご自身のニーズに合っているのか、現在の保険を継続した場合や、減額、払い済み、解約といった他の方法と比較して、ご自身にとって最も有利な選択肢は何なのかを、時間をかけて慎重に検討することが非常に重要です。
ご自身で判断が難しい場合は、保険会社の担当者だけでなく、特定の保険会社に偏らない独立したファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談してみることも有効な手段です。保険は一度契約すると長く付き合うものですから、後悔のないように、仕組みをよく理解し、ご自身の目でしっかりと確かめて賢い選択をしてください。