認知症に備える保険の選び方 ~公的制度と民間の備え~
老後の不安、認知症への備えを考える
定年退職後の生活では、健康維持が大きな関心事となります。中でも、多くの方が漠然とした不安を抱かれることの一つに「認知症」があります。ご自身やご家族が認知症になった場合、医療費や介護費用、さらには施設への入居費用など、経済的な負担が大きくなる可能性が考えられます。
老後の生活資金計画を立てる上で、この認知症への備えをどのように考えれば良いのか、公的な制度と民間の保険を活用した方法について、分かりやすく解説します。
認知症にかかる費用とは
認知症になると、様々な費用が発生する可能性があります。主なものとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 医療費: 認知症の診断や治療、合併症による医療費などがかかります。
- 介護費: 身体機能の低下や認知機能の障害により、日常生活を送る上で様々な介護サービスが必要になります。訪問介護、通所介護(デイサービス)、ショートステイなどの費用です。
- 施設入居費: 在宅での介護が難しくなった場合、有料老人ホームやグループホーム、介護老人福祉施設などに入居することになります。施設の種類によって費用は大きく異なりますが、入居一時金や月額利用料が発生します。
- その他: 財産管理や成年後見制度を利用する場合の費用などがかかることもあります。
これらの費用は、状態や選択するサービス、施設によって大きく変動しますが、月々数万円から数十万円、場合によってはそれ以上の負担となる可能性もゼロではありません。
公的制度での備えはどこまで?
認知症に対する備えとして、まず考えたいのが公的な制度です。
- 公的医療保険: 医療費については、一般的な病気と同様に公的医療保険が適用されます。自己負担割合に応じて医療費の一部を支払うことになります。高額療養費制度により、医療費の自己負担には上限が設けられています。
- 公的介護保険: 40歳以上の人が加入する制度で、原則65歳以上で「要支援」または「要介護」の認定を受けると、介護サービスの費用について保険給付が受けられます。認知症により介護が必要になった場合も、この制度の対象となります。サービス費用の自己負担は原則1割(所得によっては2割または3割)です。
公的制度は、老後の医療や介護を支える大きな柱となります。しかし、公的介護保険で利用できるサービスには上限があったり、自己負担割合が存在したりするため、必要なサービスを全て公的制度だけで賄うことが難しい場合もあります。特に、民間の施設への入居費などは、公的介護保険の対象外となる費用が多く含まれます。
民間保険で認知症に備える方法
公的な制度だけでは不足する可能性のある費用に備えるために、民間の保険を活用することが考えられます。主に以下のような保険があります。
1. 介護保険
民間の介護保険は、公的な介護保険の要介護認定(または保険会社独自の基準)をトリガーとして、保険金や給付金が支払われる保険です。
- 一時金型: 要介護状態になった際に、まとまった一時金を受け取れます。施設の入居一時金や自宅のリフォーム費用など、まとまった出費に備えたい場合に有効です。
- 年金型: 要介護状態が続いている間、毎年または毎月、年金形式で給付金を受け取れます。継続的な介護費用や生活費の補填に役立ちます。
【ポイント】 * 公的介護保険の要介護認定と連動しているか、保険会社独自の基準かを確認することが重要です。 * 認知症による要介護状態も保障の対象になっているかを確認しましょう。 * 一時金と年金、どちらのタイプが自分のニーズに合っているか検討が必要です。
2. 医療保険・がん保険の特約
一般的な医療保険やがん保険は、直接的に認知症を保障するものではありません。しかし、近年では認知症に関連する特約を付加できる商品もあります。
- 認知症特約: 認知症と診断された場合などに一時金が支払われる特約などがあります。診断一時金として、その後の介護費用などに充てることが考えられます。
【ポイント】 * 特約の保障内容や給付条件は商品によって異なります。どのような場合に、いくら支払われるのかをしっかり確認しましょう。
3. 終身保険や一時金が出る保険
死亡保険である終身保険でも、リビング・ニーズ特約や特定疾病保障特約などを活用して、生きている間に保険金を受け取れる場合があります。
- リビング・ニーズ特約: 余命6ヶ月以内と判断された場合に、死亡保険金の一部または全部を前倒しで受け取れる特約です。認知症の末期など、状態によっては適用される可能性も考えられますが、保障範囲は限定的です。
- 特定疾病保障保険: がん、急性心筋梗塞、脳卒中の三大疾病だけでなく、保険商品によっては、認知症など特定の疾病と診断された場合に保険金が支払われるものもあります。
【ポイント】 * これらの保険や特約は、本来の目的が死亡保障や三大疾病保障であるため、認知症に対する備えとしては限定的である場合があります。保障される病気や状態をよく確認することが大切です。
認知症に備える保険選びのポイント
認知症への備えとして保険を検討する際には、以下の点を考慮すると良いでしょう。
1. いつから備えるか
保険は、年齢が上がるほど保険料が高くなる傾向があります。また、健康状態によっては加入が難しくなることもあります。認知症を意識して備えるのであれば、健康なうちに検討を始めることが一般的です。
2. どのような保障が必要か
公的制度でカバーできる範囲、ご自身の貯蓄額、将来の生活設計などを考慮し、どのような費用に対する備えが不足しているのかを考えます。まとまった一時金が必要なのか、継続的な年金形式の給付が必要なのかによって、適した保険の種類が変わってきます。
3. 公的制度とのバランス
まずは公的な医療保険、介護保険でどのような保障が受けられるのかを理解し、その上で民間の保険でどの部分を補強したいのかを明確にすることが重要です。公的制度だけで十分なのか、どの程度の自己負担なら許容できるのか、具体的なイメージを持つことが大切です。
4. 保険料負担とのバランス
保険料は、毎月または毎年継続して支払う必要があります。無理のない範囲で支払える保険料か、家計への影響を考慮して検討しましょう。
5. 保険金請求時の手続き
認知症になった場合、ご自身で保険金の請求手続きを行うことが難しくなる可能性があります。あらかじめ、信頼できる家族などを「指定代理請求人」として指定できる保険商品を選ぶ、または任意後見制度などを検討しておくことも重要です。
まとめ
認知症は、老後の生活に大きな影響を与える可能性のある病気です。医療費や介護費用など、経済的な負担も無視できません。
しかし、公的な医療保険や介護保険といった制度があり、それに加えて民間の介護保険や特約などを活用することで、計画的に備えることが可能です。
ご自身の健康状態、貯蓄状況、そして将来の生活設計などを踏まえ、公的な制度でどこまでカバーできるのか、民間の保険でどのような備えを追加したいのかを具体的に検討することが、安心な老後につながります。
保険選びは複雑に感じられるかもしれませんが、焦らず、ご自身の状況に合った最適な方法を見つけてください。必要に応じて、保険の専門家やファイナンシャルプランナーに相談することも、賢い保険選びの一歩と言えるでしょう。